第二回 機械工学の勉強~材料の強度

2026/06/14

機械工学 材料工学

前回の記事ではねじの役割や形状について整理しましたが、今回は一歩進んで「ねじの強度」について勉強していきたいと思います。内容としては前回よりも工学寄りになってきたと思います。なお、今回の記事は機械工学としては材料力学という項目みたいです。

↓前回の記事

第一回 機械工学の勉強~ねじの働き、ねじ山の種類

ねじの強度を正しく計算し、理解するためには、材料力学の重要グラフである「応力-ひずみ線図」を読めるようになることをゴールとします。具体的に言うと下記のような図です。

引張強さとは?引張試験や応力-ひずみ曲線(S-S曲線)の見方についてより引用

私は趣味でバイクや車の整備をしていますが、これまで機械工学を体系的に勉強したことがありませんでした。そのため、いきなりこの難しいグラフを見ても正直ピンときません……。そこで今回は、グラフの形を完璧に理解するために必要な基礎知識を、1ステップずつ階段を上るように勉強して整理しました。

この記事を読み終える頃には、ボルトの頭に刻まれている「4.8」や「10.9」といった強度区分の数字が持つ本当の意味が、理解できるようになる……ハズです!

本記事で扱う内容

応力-ひずみ線図という「完成形」をいきなり見るのではなく、以下の5つのステップで学んでしていきます。

  • ステップ1:応力(おうりょく) = 外力に対して材料の内部に生じる「抵抗力(内力)」
  • ステップ2:ひずみ = 引っ張られて変形した「割合」
  • ステップ3:弾性と塑性(そせい) = 力を抜いたときに「元に戻るか、伸びきってしまうか」
  • ステップ4:弾性係数(ヤング率) = 材料ごとの「変形しにくさの指標」
  • ステップ5:降伏点と引張強さ = ねじの限界値を表す「2つの壁」

これらを踏まえた上で、最終ゴールである「応力-ひずみ線図」の全貌を体系的に理解できるよう、順を追って解説していきます。(私の理解が間違っている箇所があればご指摘お願いします。)

応力

まず最初は「応力(おうりょく)」です。物体が外部から力を受けた際に、物体の内部に「内力(ないりょく)」と呼ばれる抵抗力が生まれます。この内力の単位は N(ニュートン) です。

しかし、内力だけで物体の強度を定義しようとすると、同じ材質であっても「太い物体は内力が大きくても壊れないが、細い物体だと同じ内力でも壊れてしまう」といったことが起こり、材料の強さを公平に評価することができません。

そこで生まれたのが、1平方ミリメートルあたりの内力の大きさを示す「応力(建築業界では応力度とも呼ばれます)」です。応力は単位断面積あたりの内力で表され、具体的には下記の計算式になります。

\begin{equation} \sigma = \frac{P}{A} \end{equation} \begin{equation*} \begin{array}{lcl} \sigma & \text{:} & \text{応力 } [\text{N/mm}^2] \text{ または } [\text{MPa}] \\ P & \text{:} & \text{物体の内部に生じる内力 } [\text{N}] \\ A & \text{:} & \text{物体の断面積 } [\text{mm}^2] \end{array} \end{equation*}
内力と応力(第一回 応力とひずみより引用)

補足になりますが、$1 Pa = N/m^2$のため、$1 MPa = 10^6 Pa = N/mm^2$と表現できます。材料工学ではMPaという単位のほうが一般的みたいです。JIS B1051でも単位としてはMPaが使用されています。

また、建築業界では応力 = 内力で、機械工学の応力は建築業界では応力度といいます。

応力とは、外部から加えられた力(荷重)に対して抵抗する力のことであり、外力を受けた部材内部に発生する内力を指します。部材はこの抵抗力(応力)が外力と釣り合うことで、破壊されることなく安全な状態を保ちます。

応力とは?種類・意味・単位を基礎から学ぶ建築入門

私みたいな初学者は間違えて覚えてしまう可能性があるので、現在学んでいる分野の用語を勉強しているかを注意したほうがいいと思いました。

(補足)せん断応力、曲げ応力について

応力には「引張応力」「せん断応力」「曲げ応力」など、外から力が加わる方向や変形の仕方に合わせていくつかの種類があります。基本となる計算はどれも「力に対して材料がどう抵抗するか」を考えていくものですが、最初は『注目する面や力の向きが異なるんだな』くらいの理解で全く問題ありません。(というか私の理解がその理解しかできませんでした。。。曲げはもう少し難しそうなので、今回は扱いません。)

せん断応力については下記動画が分かりやすかったです。

今回取り扱う「応力-ひずみ線図」を理解するためには、最もシンプルで基本となる「引張応力」を抑えておけば大丈夫です。そのため、ここから先で登場する「応力」は、すべてボルトが引っ張られているときの引張応力のことだと思って読み進めていただけると幸いです。

ひずみ

先ほどの応力の説明では、物体の「変形」については触れませんでした。しかし実際の物体は、外から力が加わると必ず変形(伸び縮み)をします。

この、元の長さに対する変形量の割合のことを「ひずみ」といいます。

具体的には、下記図に示すような棒状の物体を引っ張るシーンを考えたとき、元の長さを $L_0$、変形量(伸びた長さ)を $\Delta L$ とすると、ひずみ $\varepsilon$ は以下の式で表すことができます。

\begin{equation} \varepsilon = \frac{\Delta L}{L_0} = \frac{L - L_0}{L_0} \end{equation} \begin{equation*} \begin{array}{lcl} \varepsilon & \text{:} & \text{ひずみ(単位なし、無次元量)} \\ L_0 & \text{:} & \text{物体の元の長さ } [\text{mm}] \\ L & \text{:} & \text{変形した後の物体の長さ } [\text{mm}] \\ \Delta L & \text{:} & \text{物体の変形量(伸びた長さ) } [\text{mm}] \end{array} \end{equation__

※ここで注目したいのは、ひずみには「単位(mmやNなど)がない」という点です。ミリメートル(mm)の長さを、同じミリメートル(mm)の長さで割り算しているため、単位同士が打ち消し合って消えてしまいます。このように単位を持たない数値を工学では「無次元量(むじげんりょう)」と呼び、純粋な『変形の割合(倍率)』を表します。

棒の伸びとひずみ(第一回 応力とひずみより引用)

弾性と塑性

次に「弾性(だんせい)」「塑性(そせい)」という言葉を紹介します。この2つの言葉を理解するうえで、一番わかりやすいのが「ばね」です。

ばねは力を加えて少し伸ばしても、力を加えるのをやめると元の長さに戻りますよね?このように、力を抜くと元の形に戻ろうとする性質を「弾性」といいます。力の大きさとバネの伸びは一定の範囲内なら比例する関係があります。(のちほど紹介しますが、高校物理でも扱う「フックの法則」です。)

応力とひずみが比例関係になる(応力とひずみより引用)

反対に、ばねを馬鹿力で引っ張ってビヨーンと伸びきってしまうと、力を加えるのをやめても元の長さに戻らなくなってしまいますよね。このように、限界を超えた力が加わったことで、力を抜いても元の形に戻らなくなってしまう性質のことを「塑性」といいます。

ここでは分かりやすくばねを例に挙げましたが、真っ直ぐな金属の棒やボルトも、全く同じ性質を持っています。

例えば、ボルトを正しく締め付ける際は、この「元の形に戻ろうとする力(弾性)」をばねのように利用して部品をがっちりと固定しています。しかし、ねじを規定トルクを超えて馬鹿力で締めすぎてしまうと、ボルトが塑性の状態(元に戻らない領域)に入ってしまいます。こうなると、いくらボルトを回しても締め付ける力がそれ以上強くならなくなり、手応えがフッと軽くなった後、最終的にねじ切れてしまいます。

弾性係数

続いて「弾性係数(だんせいけいすう)」についてみていきます。弾性係数の説明をする前に、先ほど少し触れた高校物理の「フックの法則」を復習しましょう。フックの法則は下記のように表されます。

\begin{equation} F = kx \end{equation} \begin{equation*} \begin{array}{lcl} F & \text{:} & \text{ばねを引っ張る力 } [\text{N}] \\ k & \text{:} & \text{ばね定数(ばねの硬さ・強さの指標)} [\text{N/mm}] \\ x & \text{:} & \text{ばねの伸び } [\text{mm}] \end{array} \end{equation*}

材料力学の基礎の基礎なので、しっかり理解しましょうね。

材料に垂直応力 $\sigma$ が加わり、これによって縦ひずみ $\varepsilon$ が生じたときの弾性係数を「縦弾性係数(たてだんせいけいすう)」といい、一般的には「ヤング率」とも呼ばれます。これは次の式で表すことができます。

\begin{equation} E = \frac{\sigma}{\varepsilon} \end{equation}

この式を変形すると、以下のようになります。

\begin{equation} \sigma = E\varepsilon \end{equation} \begin{equation*} \begin{array}{lcl} E & \text{:} & \text{縦弾性係数(ヤング率) } [\text{MPa}] \text{ または } [\text{N/mm}^2] \\ \sigma & \text{:} & \text{材料に生じる垂直応力 } [\text{MPa}] \\ \varepsilon & \text{:} & \text{材料に生じる縦ひずみ(単位なし)} \end{array} \end{equation*}

フックの法則の式( $F = kx$ )と、材料力学の式( $\sigma = E\varepsilon$ )を見比べてみてください。高校物理で習った「力 $F$」に対応するのが「応力 $\sigma$」「ばね定数 $k$」に対応するのが「ヤング率 $E$」、精度よく材料の強度を評価することができます。

高校物理の「ばね定数が高い = 硬くて縮みにくいばね」だったのと同じように、材料力学でも「ヤング率が高い = 変形しにくい硬い物質」というイメージを持つことができます。

例えば、私たちがよく目にする金属である「鉄」のヤング率は、実は「アルミ」の約3倍もあります。つまり、同じ形状であれば、鉄のほうがアルミよりも3倍も『ギチギチに硬くて変形しにくい材料』ということになります。このようにヤング率を知ることで、材料そのものの硬さをフェアに比較できるようになるのです。

ここで、高校時代に習ったフックの法則( $F = kx$ )との違いに注目してみましょう。それは「数式に登場する単位の組み合わせ」です。

高校物理のばねの式では、左辺の「力( $N$ )」と右辺の「ばね定数( $N/mm$ )」で単位が異なっていました。しかし、材料力学の式( $\sigma = E\varepsilon$ )では、先ほど説明した通り、変形量を表す「ひずみ $\varepsilon$ 」が割合(無次元量)のため単位がありません。

そのため、掛け算のつじつまを合わせる結果として、応力 $\sigma$ の単位と、ヤング率 $E$ の単位がまったく同じ( $\text{MPa}$ または $\text{N/mm}^2$ )になるという面白い現象が起きます。最初は不思議に感じるかもしれませんが、これを知っておくと数式の理解がグッと深まります。

比例限度と弾性限度

先ほどの弾性と塑性で紹介した、「力の大きさとバネの伸びは一定の範囲内なら比例する」という性質を頭に入れたうえで、改めて「応力-ひずみ線図」の最初の部分を見てみましょう。

下記の図を見ると、赤い領域ではひずみ(横軸)に比例して、応力(縦軸)が真っ直ぐきれいに上昇していることが分かります。この区間こそが、先ほど紹介した「フックの法則( $\sigma = E\varepsilon$ )」が成り立ち、応力とひずみが正比例の関係にあるエリア(比例領域)です。

そして、このフックの法則に則って比例の関係を保つことができる「限界のポイント」のことを、比例限度(ひれいげんど)と言います。

比例限度を超えてさらにひずみ(変形)が増加すると、グラフはわずかにカーブし始めます。この領域では、力を取り除けばまだ元の形に戻ることができますが、さらに強い力を加えていくといよいよ元に戻らなくなってしまいます。この「力を取り除いても元の形に戻らなくなる限界のポイント(点)」のことを、弾性限度(だんせいげんど)と言います。

逆に言うと、弾性限度まではどれだけ力を加えて変形させても、力を抜けば完全に元の形状に戻るということが分かります。下記図の赤色のエリア(弾性領域)がまさに物体がもとに戻ることが出来るひずみの限界であることを改めて理解することが出来ました。

また、弾性限界を超えて力を掛けていった際に元に戻らなくなる領域を塑性域と言います。

降伏点、引張強さ、破断

降伏点について

先ほどの「応力-ひずみ線図」をさらに先へと見てみましょう。弾性限度を超えてさらにボルトに力を加えていくと、応力がガクッと下がり、加える力を増やさなくてもひずみ(変形)だけがズルズルと増加していく不思議な区間が現れます。この材料が力に耐えかねて降参してしまう現象を「降伏(こうふく)」と呼び、その時のポイントを「降伏点」と言います。

今回グラフで扱っている軟鋼(一般的な鉄)の場合は、この降伏点が2つに分かれて現れるのが特徴です。ガクッと下がり始める山頂の、高い方の応力を「上降伏点(かみこうふくてん)」、下がった後にぬるぬると伸び始める谷底の、低い方の応力を「下降伏点(しもこうふくてん)」と言います。

経験したことがない人もいるかもしれませんが、趣味でバイクや車の整備をしていて、固着したねじを無理に外そうとした際などにボルトをねじ切ってしまうことがありますよね。あの、工具を回している最中に手応えが「ぬるっ」と急に軽くなる感覚、あれこそがまさに、ボルトが上降伏点を超えて下降伏点へと突入した瞬間です。

また、記事によっては降伏点までを先ほど紹介した弾性域としている場合もありました。おそらく実際の設計する場面では上降伏点と弾性限界の差が誤差レベルなので、上降伏点までを弾性領域にしているケースがあるのではないかと推定してます。(答えが分かる人いたら教えてほしいです。)
応力-ひずみ線図より引用

(追記)下記記事によるとコットレル固着という用語を用いて塑性変形が始まる点は弾性限度であると述べてます。私にはまだレベルが高い話なので、もう少ししたら再度勉強しなおそうと思いますが、参考までに紹介しておきます。
降伏点とは何か?上・下降伏点が表れる理由、表れない材料

引張強さについて

降伏点のぬるぬると伸びる区間を過ぎると、最後となる「引張強さ」です。

引張強さは材料の強さを示す最も重要なパラメータの一つで、材料が破断するまでに生じる「最大の応力」のことを言います。

先ほどの「応力-ひずみ線図」のグラフを見てもわかる通り、全体のなかで最も応力が高い「山のてっぺん」の点に、この引張強さがプロットされています。

「下降伏点」で一度ガクッと抵抗力が落ちたボルトですが、そこからさらに引っ張られると、「加工硬化」という現象が起きます。加工硬化により塑性変形させていくと、一度落ちた応力が復活して応力のピークになるみたいです。

(加工硬化については下記記事を参考にお願いします。原子レベルの話が記載されており、私は正確に理解できているか怪しいので、用語だけ紹介しておきます。。。)

加工硬化とは?そのメカニズムや加工硬化曲線の見方について

【徹底解説】加工硬化とは?塑性変形のメカニズムと切削時の対策

しかし、この最高ピーク(引張強さ)に達した瞬間、ボルトのどこか一箇所が急激に細くなり始めます。これを「くびれ」と呼びます。

破断

最後に破断です。引張強さを超えると再度応力が下がっていき、最終的に引き延ばされた物体が引きちぎれてしまいます。この引きちぎれる点を破断点と言います。実際に引きちぎれる際の様子は次の動画を見るとわかりやすいです。

実際の引張試験の動画

下記動画が応力 - ひずみ線図と実際の物体を同時に見せてくれているので、直感的でわかりやすかったです。

ねじの強度の見方

ここではJISに記載されているねじの強度区分の見方について紹介します。あまり意識してないかもしれないですが、ネジの頭のところに〇.〇のような数字が刻印されております。
ねじ・ボルトの強度区分についてより引用
例えば上記の画像の8.8というボルトの場合は前半の数値が引張強さを表しており、引張強さが800 [MPa]となります。後半の8は引張強さの何%のところに降伏点があるかを示しており、この場合だと引張強さ 800 [MPa]の80 %すなわち640 [MPa]のところに降伏点があることを示してます。

保証荷重応力

JIS規格を見ると他にも情報が載ってます。ここでは保証荷重応力について紹介します。
JIS規格は下記を参照しました。
B 1051

保証荷重応力はボルトが永久変形(塑性変形)を起こさず耐えられる限界の応力値のことを言います。一般的に降伏点の90 % 程度で設定されてます。

例えば先ほどの8.8というボルトだと降伏点が640 [MPa]なので、0.9を掛けると576 [MPa]となります。実際にJIS規格を見てみるとおおよそ576付近の値が設定されてます。

B 1051より引用


(補足)他の材料の応力ひずみ線図

今回見た応力線図は一番特性が分かりやすい"軟鋼"の応力 - ひずみ線図でした。ここでは他の材料の応力線図を見ていきます。

下記図の緑線が今まで見てきた軟鋼の応力線図で、オレンジがガラスやコンクリートなどの脆性材料です。ガラスを想像するとわかると思いますが硬い物質であまり伸びずにいきなり破断してしまいます。

青線はゴムやプラスティックなど伸びやすい延性材料です。

様々な材料の応力ひずみ線図より引用
このような材料だと今回取り扱った変形限界を定義するのが難しいので、設計基準として耐力と呼ばれるものを設定します。耐力はある微小塑性ひずみが残るような応力を降伏点の代わりとするという考え方です。

微小ひずみってどのくらいかというと一般的には0.2 %を採用しています。具体的な0.2% 耐力の説明としては下記図が分かりやすかったです。

まとめ

今回はボルトの強度を正しく理解するために、材料力学の重要グラフである「応力-ひずみ線図」の勉強してきました。

これまで何気なく見ていたボルトの頭の「8.8」や「10.9」といった強度区分の数字が、まさか今回学んだ「引張強さ」や「降伏点(耐力)」を勉強したことで理解できるようになりました。

趣味の整備でたまに経験するあの「ぬるっと手応えが軽くなる」の正体も理論的に理解できたのもよかったです。この記事が、私と同じように整備を楽しんでいる方や、新しく材料力学を学び始めた方の参考になれば幸いです。

その他参考にしたサイト

自己紹介

はじめまして 社会人になってからバイクやプログラミングなどを始めました。 プログラミングや整備の記事を書いていますが、独学なので間違った情報が多いかもしれません。 間違っている情報や改善点がありましたらコメントしていただけると幸いです。

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