身の回りのねじについてきちんと勉強したいと思い、下記の『メイカーのためのねじの基本』という本を読んでいました。
この本の中で、レオナルド・ダ・ヴィンチの「機械学あるいは工学は最も高貴で、他のすべての科学にもまして有益である」という言葉が紹介されていました。
自分は趣味でバイクや車の整備をしているのですが、これまで工学として機械工学を体系的に勉強したことがありませんでした。
レオナルド・ダ・ヴィンチの時代と現代では状況が異なり、現在はソフトウェア工学に大きな注目が集まっている(と勝手に思っています)とは思いつつも、最終的に「物理的なものを動かす」ということになると、機械工学の知識が必要不可欠であると改めて実感しました。そのため、不定期ではありますが機械工学を勉強していき、学んだことをブログで整理していきたいと思います。
最初の方は現在読んでいるねじの本がベースになるため、ねじ関連の話がメインになると思いますが、将来的には機械力学や材料力学など、機械工学のベースとなる「4大力学」の一部も勉強していきたいと考えています。
前置きが長くなりましたが、ここからは本の内容をベースに、興味がある項目を深掘りして整理していきます。(この本にはねじの製造方法なども紹介されていましたが、今回は取り上げないため、興味がある方はぜひ本を購入して読んでみてください。)
ねじの働きについて
私はこの本を読むまで、ねじの役割は「もの同士を締結する」程度の解像度しか持っていなかったのですが、ほかにも重要な役割があることを学びました。ここでは本で紹介されていた代表的な3つの働きを紹介します。
1. 締結に用いられる
一番よく知られている役割だと思いますが、ねじは複数の部品をしっかりと固定(締結)する際に使われます。部品を締結する手段としては、ほかにも溶接や接着剤などがありますが、これらは一度固定するとバラすのが難しくなり、着脱性が悪くなってしまいます。ねじによる固定には、「締めたいときにはきちんと締まって緩まないように、かつ緩めたいときには簡単に緩んでほしい」という、相反する性質が求められます。その二つの性質をバランスよく満足している優れた道具の一つが、ねじです。
2. 運動伝達にも用いられる
ねじの役割は締結だけではなく、「回転運動を直線運動に変換する」という機能もあります。冒頭に紹介した本では、ぶどう酒やオリーブオイルを絞るための「ねじプレス(スクリュープレス)」や、工作機械の送り機構などが紹介されていました。
スクリュープレスの例を下記図に示します。
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| Screw mechanismより引用 |
このスクリュープレスは紀元前から使われていたとのことで、ねじの歴史としては「締結」よりも「運動伝達」としての使われ方のほうが古いみたいです。また、回転運動を直線運動に変換するイメージ図を下記に示します。
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| Screw mechanismより引用 |
工作機械の送り機構は、上記のGIFアニメーションのような動きをモーターで制御し、ねじを回転させることでテーブルを直線方向に正確に送り出すなどの役割を果たしています。
3. 計測にも用いられる
マイクロメーターは、ねじの回転を計測に活用した道具の代表例です。
マイクロメーターに使用されているねじはピッチが非常に小さく、「スピンドルが1回転するとわずか0.5mm前進する」という特性を利用して、微小な寸法を正確に測定します。ねじのピッチが小さいほど、同じ回転量に対する移動距離が短くなるため、高精度な計測が可能になります。
マイクロメーターの内部構造が分かりやすい画像を下記に示します。
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| 【図解】マイクロメーターの構造と測定原理|精度の秘密を徹底解剖!より引用 |
細かな単位の測定をするためには、ねじのピッチと目盛りの連動が鍵になります。一般的なピッチ0.5mmのねじを使い、目盛り(シンブル)が50等分されているマイクロメーターを考えると、0.5mm / 50 = 0.01mm の分解能(最小読取値)で測定することができます。
(補足)目視補間でより精度良く読み取ることも可能
少し話がそれてしまいますが、マイクロメーターの目盛りの分解能自体は0.01mmであっても、人間の目分量(目視補間)によって0.001mm(1㎛)まで読み取ることができます。
具体的には、下記のようにスリーブの基線とシンブルの目盛線のズレ具合を見て判断します。
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| マイクロメータの使い方/測定方法/目盛りの読み方/保管方法より引用 |
実際のマイクロメーターでの読み取り例を紹介します。
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| マイクロメータの使い方/測定方法/目盛りの読み方/保管方法より引用 |
この読み取りには少し経験(慣れ)が必要なため、私のような初心者だと判定にバラつきが出てしまうこともあります。最近は液晶画面に数値が直接表示される「デジタルマイクロメーター」も広く普及しているため、最初はデジタルの力を借りて効率化するのも大いにありだと思います。
ねじの各部名称
ここではねじの各部の基本的な名称について整理します。
ねじ山の角度、呼び径、ピッチについて
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| 2-1 ねじの各部名称より引用 |
ねじ山とねじ山の間の距離のことをピッチと言います。また、おねじの外径(またはめねじの谷の径)の基準寸法のことを呼び径と呼び、この直径が6mmであれば「M6」という規格のねじとして流通しています。
図に示されている「ねじ山の角度」については、私たちが日常で使う一般的なメートルねじでは60°と定められています。
有効径の重要性と幾何学的な定義
各部名称の中で少し概念が難しいのが有効径(ゆうこうけい)です。定義としては「ねじ溝の幅とねじ山の幅がちょうど等しくなるような仮想的な円筒の直径」を指します。
具体的な計算方法をJIS規格(JIS B 0205)の基準山形から紐解いてみましょう。
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| JIS B 0205より引用 |
JIS規格では、基準となる60°の正三角形の高さを $H$ としたとき、各部の寸法が以下のように綺麗に数式で定義されています。
4. 寸法 図1に示す基準山形の寸法は,表1による。JIS B 0209-1に規定する基礎となる寸法許容差及び公差は,この基準山形の寸法に適用する。
\begin{align*} H &= \frac{\sqrt{3}}{2}P = 0.866025404P \\ \frac{5}{8}H &= 0.0541265877P \\ \frac{3}{8}H &= 0.0324759526P \\ \frac{H}{4} &= 0.0216506351P \\ \frac{H}{8} &= 0.0108253175P \end{align*}
実際のねじ山は先端が尖っていると危険なため、正三角形の頂点から $\frac{1}{8}H$ だけ削り落とした位置が実際のボルトの「外径(てっぺん)」になります。一方、有効径は正三角形のちょうど真ん中(高さ半分の地点)を通るため、外径から有効径までの片側の深さは、差分である $\frac{1}{2}H - \frac{1}{8}H = \frac{3}{8}H$ となります。
これを直径(両側分)の計算に直すと $\frac{3}{8}H \times 2 = \frac{3}{4}H$ を引くことになります。ここに正三角形の高さの公式 $H = \frac{\sqrt{3}}{2}P$ を代入すると、有効径は以下の公式で算出することができます。
$\text{有効径} = \text{外径} - \frac{3 \sqrt{3}}{8} \times \text{ピッチ} (P)$
(= $\text{外径} - 0.649519P$)
最初はこの「$\frac{3}{8}H$」などの数字がどこから来るのかピンとこなかったのですが、JIS規格書の基準図を見ながら「山のてっぺんが $\frac{1}{8}H$ 削られていること」や「谷が $\frac{1}{4}H$ 削られていること」を考慮して幾何学的に引き算していくと、パズルが解けるようにすっきりと納得することができました。
ちなみに、この有効径はねじの断面積(負荷が耐えられる面積)を求めて強度計算をする際に非常に重要な指標として使用されます。(具体的にどのような使われ方をするのかは本に詳しく載っていなかったので、今後のステップで学んでいきたいです。)
リード角、リード、フランク、フランク角
次に、ねじの進み方に関係する「リード」と「リード角」について紹介します。円筒に直角三角形の紙を巻き付けると、三角形の斜面が綺麗な螺旋(らせん)を描くことが分かります(下記図参照)。
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| 2-2 ねじ山の種類より引用 |
この幾何学的ならせんの線のことをつる巻線(つるまきせん)とも呼びます。ねじをこのつる巻線に沿って1回転させたときに、軸方向に進む距離のことをリードといい、1回転の円周(有効径×$\pi$)とつる巻線が作る傾き角度のことをリード角といいます。
通常のねじ(1条ねじ)では「ピッチ = リード」となりますが、この後紹介する「二条ねじ」などの多条ねじでは、リードがピッチの整数倍になります。
二条ねじについて
通常のねじは1本のねじ山(条)がらせん状に巻き付いてできていますが、二条ねじは2本の独立したねじ山が平行して同時に巻き付いている構造をしています(下記図の青線と赤線の2本が交互に走っています)。
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| 二条ねじとはより引用 |
ピッチの定義はあくまで「隣り合う山と山の間隔」なので、同じ見た目の細かさ(ピッチ)であっても、二条ねじは1回転でねじ山2つ分を一気に進みます。そのため、「リード = ピッチ × 2」が成り立ちます。「山の間隔は細かく保ったまま、素早く締めたい、あるいは大きく動かしたい」という、ペットボトルのキャップやカメラのレンズ筒などに多用されています。
ねじの断面形状による分類
ここからは、ねじ山の断面形状(プロファイル)による特徴や用途の違いを整理していきます。
三角ねじ
三角ねじは、ねじ山の断面が三角形(メートルねじなどは60°)をしている、世界で最も普及しているおなじみのねじです。山が尖っているため、締め付けたときに強い摩擦力が発生します。この摩擦のおかげで、一度締めると振動が加わっても非常に緩みにくいという特性があり、主に部品の「締結用」としてあらゆる機械や構造物に使われています。
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| 2-2 ねじ山の種類より引用 |
台形ねじ
台形ねじは、ねじ山の断面が台形(山の角度は主に30°または29°)をしているねじです。三角ねじに比べて斜面の傾きが垂直に近く急なため、回転させたときに軸方向(進む方向)への正確な位置決めがしやすいのが特徴です。また、後述する角ねじに比べて切削加工などの製造がしやすく強度も高いため、機械を精密かつ滑らかに動かすための「運動伝達用(送りねじ)」として広く採用されています。
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| 2-2 ねじ山の種類より引用 |
角ねじ
角ねじは、ねじ山の断面が正方形や長方形に近い四角い形をしたねじです。ねじ山の斜面が軸に対して「垂直」になっているため、回転させたときに摩擦によるエネルギーのロス(摩擦損失)が最も少ないという抜群の伝達効率を誇ります。つまり、手動で回すような小さな回転力であっても、軸方向に対して非常に強力な押し出す力を生み出すことができます。このような特徴から、自動車のタイヤ交換などで用いるパンタグラフジャッキや、プレス機械などに使用されています。
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| 2-2 ねじ山の種類より引用 |
のこ歯ねじ
のこ歯(のこば)ねじは、その名の通り「ノコギリの刃」のように、左右非対称の断面形状をした特殊なねじです。角ねじの「摩擦が少ない(効率が良い)」というメリットと、三角ねじの「根元が太くて頑丈(強度が高い)」というメリットをブレンドした構造をしています。力を受ける面は垂直(角ねじ風)になっており、反対側の面は斜め(三角ねじ風)になっています。そのため、「一方向からだけ猛烈な軸荷重がかかる」という環境において、最高の効率と抜群のタフさを発揮し、万力や大型プレス機などに活用されています。
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| 2-2 ねじ山の種類より引用 |
丸ねじ
丸ねじは、ねじ山の頂上も谷底も、すべて丸み(アール)を帯びた波のような形状をしているねじです。尖った部分が一切ないため、薄い金属板やプラスチックといった「破断しやすいデリケートな素材」にねじ山を作っても、素材を傷つけにくいというメリットがあります。また、砂利やゴミがねじ溝に噛み込んでも逃げやすく、ねじ山自体が欠けにくいため、過酷な環境や、人間の手で頻繁に回す日用品(電球の口金やペットボトルのキャップなど)に向いています。
| 2-2 ねじ山の種類より引用 |
補足:ユニファイねじ(インチねじ)の規格と独特な呼び方
ホームセンターなどでよく見かけるねじの「M6」や「M8」という呼称は、ミリメートル単位で寸法が規定された「メートルねじ」であることを表しています。これに対して、アメリカや航空機産業などで広く使われているインチ単位のねじ規格のことを、ISOやJISでは「ユニファイねじ」という名称で定めています。
ユニファイねじのサイズは「1/4(4分之1インチ)」や「3/8(8分之3インチ)」のように分数で表記され、さらにメートルねじのピッチに相当する基準として「1インチ(25.4mm)の間にねじ山が何個あるか(山数)」で細かさを表します。主に一般的な用途向けの「ユニファイ並目ねじ(UNC)」と、自動車や航空機の振動部向けの「ユニファイ細目ねじ(UNF)」の2種類が存在します。
日本のねじ現場に残る「分(ぶ)」という不思議な呼び名
日本の建築や配管、古い機械の現場では、このインチねじ(ユニファイねじなど)を呼ぶ際、伝統的な和文読み(尺貫法の単位)である「分(ぶ)」という言葉が今でも日常的に使われています。
例えば、現場では以下のような呼ばれ方をします。
- 1/4 インチ = “二分(にぶ)”
- 3/8 インチ = “三分(さんぶ)”
- 1/2 インチ = “四分(よんぶ)”
初めてこれを聞くと、なぜ「1/4が二分」で「1/2が四分」になるのか混乱してしまいますが、これは「1インチの8分の1 = 1分(いちぶ)」をベースとして定めているからです。すべての分数を「分母を8」に統一して直してみると、そのロジックが綺麗にすっきり見えてきます。
- 1/4 = 2/8 インチ → 分子が「2」なので “二分(にぶ)”
- 3/8 = 3/8 インチ → 分子が「3」なので “三分(さんぶ)”
- 1/2 = 4/8 インチ → 分子が「4」なので “四分(よんぶ)”
このように、約分する前の「8分のいくらか」という分子の数字がそのまま現場の呼び名として使われているわけです。この背景を知っておくと、ホームセンターや整備の現場でインチねじの表記を見たときに、スッと理解できるようになるので非常におすすめの豆知識です。
まとめ
今回は、書籍『メイカーのためのねじの基本』のインプットをベースに、ねじの3つの役割や各部名称、そして断面形状による特徴の違いについて深掘りして整理しました。
この記事の重要なポイントを振り返ると、以下の通りです。
- ねじの3つの働き:「締結(留める)」だけでなく、「運動伝達(動かす)」や「計測(測る)」という現代の精密機械に不可欠な役割を持っている。
- 形状による適材適所:緩みにくさを重視した「三角ねじ」から、効率を極限まで高めた「角ねじ」「のこ歯ねじ」、デリケートな素材を守る「丸ねじ」など、形そのものに明確な目的がある。
- 現場独自の文化:ユニファイねじ(インチねじ)を呼ぶ「三分(さんぶ)」「二分(にぶ)」という表現は、分母を「8」に固定したときの分子の数に由来している。
趣味のバイクや車の整備で何気なく触っていたねじですが、工学的な視点で一本一本を眺めてみると、新たな気づきがありとても面白かったです。ソフトウェアがどれだけ進化しても、最後に物理的なモノを正確に動かし、支えているのはこうした部品一つ一つだと改めて実感しました。
今回はねじの基本を整理しましたが、次回はねじの強度とねじの力学について勉強していきたいと思います。
その他参考文献
今回の記事を執筆するにあたり、大変参考にさせていただいたWebサイトです。ねじの深い構造や歴史に興味がある方はぜひこちらも目を通してみてください。
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