前回の記事でねじの力学について紹介しました。
第3回 機械工学の勉強~ねじの力学、締め付け管理方法前回の記事で導出した式は実用的な式ということで普段の計算ではこの数式で問題ないと思いますが、今回は機械工学の勉強をしているということで、JIS規格(JIS B 1083:2008)に記載されている式について勉強し、理解を深めていきたいと思います。
独学ということもあり、間違っている箇所があればご指摘をいただけると幸いです。
前回の記事で紹介したねじのモーメントの数式とJIS B 1083に記載の数式の違い
少し復習になりますが、前回の記事で式\eqref{trq}という式を紹介しました。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| \(T\) | トルク |
| \(K\) | トルク係数 |
| \(d\) | ねじの呼び径 |
| \(W\) | 軸力 |
一方で、JIS規格では式\eqref{JIS_trq}が紹介されています。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| \(T\) | 締付けトルク |
| \(T_{\mathrm{th}}\) | ねじ部トルク |
| \(T_{\mathrm{b}}\) | 座面トルク |
| \(K\) | トルク係数 |
| \(F\) | 初期締付け力又は締付け力(この記事では軸力と同じものとして扱います。) |
| \(d\) | ねじの呼び径 |
前回紹介した式とJISに記載されている式の大きな違いは、トルクをねじ部トルク \(T_{\mathrm{th}}\) と座面トルク \(T_{\mathrm{b}}\) の二つに分けて考えていることです。今回は、ねじ部トルクと座面トルクも考慮した式について勉強していきます。
ちなみに、座面トルクとねじ部トルクが具体的にねじのどこの部分を指しているのかがピンとこなかったため、分かりやすい図がないか調べていたところ、下記の図が分かりやすかったので紹介します。この画像では \(T_p\) というJIS規格には記載がないものが登場しますが、JIS規格に記載されている \(T_{\mathrm{th}}\) をより細分化すると、図中の \(T_p\) 相当の項が含まれるという理解です。この辺りも整理しながら残していきます。
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| Predictive model for bearing torque in bolt fasteningより引用 |
この後で、JISの数式の各項について見ていきながら、導出過程を理解していきます。
ねじ部トルク(\(T_{\mathrm{th}}\))について
まず最初に \(T_{\mathrm{th}}\) の項について理解を進めていきます。JIS B 1083:2008 には、下記のような数式で表されています。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| \(T_{\mathrm{th}}\) | ねじ部トルク |
| \(F\) | 初期締付け力又は締付け力 |
| \(P\) | ねじのピッチ |
| \(\mu_{\mathrm{th}}\) | ねじ面の摩擦係数 |
| \(d_2\) | ねじの有効径の基準寸法 |
\(F\frac{P}{2\pi}\) の項について
ここではまず、式の中に出てくる \(F\frac{P}{2\pi}\) の項の意味を整理します。この項は、摩擦を考えずに、ねじを回して軸力 \(F\) を発生させるために必要なトルク成分です。少し分かりにくい形をしていますが、仕事の関係で見ると理解しやすくなります。
ねじを1回転させると、回転角は \(2\pi\ \mathrm{rad}\) です。一方、1条ねじでは、ねじは軸方向にピッチ \(P\) だけ進みます。したがって、摩擦がない理想状態では、
回転方向に与えた仕事 = 軸方向にした仕事
になります。
これを式で表すと、回転側で与えた仕事は、トルク \(T\) に1回転の角度 \(2\pi\ \mathrm{rad}\) を掛けた下記式になります。
最初、トルクと回転量でなぜ仕事になるのかを正しく理解できていなかったのですが、下記動画が分かりやすかったため、私みたいに分からない方がいらっしゃったら参考にしていただけると幸いです。
次に軸方向の仕事についてです。前回の記事で、ねじは下記のように三角形を巻いた形で表すことができると紹介しました。この図を使って、この数式を理解していきたいと思います。
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| 2-2 ねじ山の種類より引用 |
ねじを1回転させると、ねじは軸方向にリード分だけ進みます。1条ねじではリードとピッチが等しいため、1回転あたりの軸方向の移動量は \(P\) になります。
このとき、軸方向の締付け力を \(F\) とすると、摩擦がない理想状態で軸方向にした仕事は下記のようになります。
力の向きなどは下記を参照してください。物理の斜面を上がる物体の仕事の問題と同じように考えられます。
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先述した通り、摩擦がない理想状態では、回転側で与えた仕事と軸方向にした仕事が等しいため、式\eqref{FP}と式\eqref{Tpi}が等しくなり、下記のようになります。
この式を \(T\) について整理すると、下記のようになります。
最初に紹介した \(F\frac{P}{2\pi}\) の項が出てきます。また、この項が最初に紹介した画像の \(T_p\) になります。
\(F \times 0.577 \mu_{\mathrm{th}} d_2\) の項について
続いて \(F \times 0.577 \mu_{\mathrm{th}} d_2\) について整理します。この項は、ねじ山の接触面で発生する摩擦に打ち勝つための成分です。
まず、ねじ山に加わる摩擦力について考えます。メートルねじの山の角度は60度となっており、片側のねじ面だけで見ると半角の30度になります。AIに依頼して下記の説明図を作ったので、参照をお願いします。AIなので、少し変なところはありますが、気にしないでください。
摩擦力は、摩擦係数 \(\mu_{\mathrm{th}}\) と垂直抗力 \(N\) の積で表されます。メートルねじのねじ山角は60度で、片側のねじ面で見ると半角は30度です。そのため、図にも記載してありますが、軸方向の締付け力 \(F\) と、ねじ面に垂直な力 \(N\) の関係は、下記のようになります。
この式を \(N\) について整理すると、次のようになります。
したがって、ねじ面に働く摩擦力は以下のようになります。
この摩擦力が有効径 \(d_2\) の半径である \(\frac{d_2}{2}\) の位置で作用すると考えると、摩擦によるトルクは以下のようになります。
ここで \(\frac{1}{2 \times \cos 30^\circ}\) を計算すると約0.577となり、整理すると以下のようになります。これでJISの式に含まれるねじ面摩擦の項を出すことができます。
最終的な整理
今までで式\eqref{FPeqTpi2}と式\eqref{eq:thread-friction-torque-final}を導出したので、これらの式を足し合わせてJISに記載されている式と同じ形に整理すると、以下のようになります。
座面トルク(\(T_{\mathrm{b}}\))について
続いて座面トルク(\(T_{\mathrm{b}}\))について勉強していきます。JIS B 1083:2008 には、座面トルクの数式は下記のように記載されています。
この数式は、先ほどの摩擦トルクの導出と同様に、摩擦力 × 半径で求めていきます。座面は平面同士の接触として考えるため、座面に働く垂直抗力を \(F\) とみなすと、座面の摩擦力は \(F\mu_{\mathrm{b}}\) となります。
少し分かりにくいのが \(\frac{D_{\mathrm{b}}}{2}\) の項です。式的には直径を2で割って半径を求めているだけなのですが、どこの半径かが分かりにくかったです。ここでは理解がしやすいように、JIS B 1083:2008 に記載されている接触する座面が円環状の場合について考えます。
円環状の場合は、下記のような数式で表すことができます。
| 記号 | 意味 |
|---|---|
| \(D_{\mathrm{b}}\) | 座面の摩擦に対する直径(計算値又は実測値) |
| \(D_{\mathrm{o}}\) | ナット座面又はボルト頭部座面の外径。\(d_{w,\min}\) 又は \(d_{k,\min}\)(製品規格参照) |
| \(d_{\mathrm{h}}\) | ボルト穴径 |
これを図で表したものが下記の図です。この図を見ると分かりますが、座面に分布して発生する摩擦力を、まとめてその代表直径上で働いているとみなすための直径が \(D_{\mathrm{b}}\) です。あとは、この代表直径を半分にして半径とすれば、式\eqref{eq:Tb}を導出することができます。
(補足)トルク係数 Kについて
最後にJIS B 1083:2008に記載されている下記トルク係数の式について紹介します。
\begin{equation} K = \frac{1}{d} \left( \frac{P}{2\pi} + 0.577 \mu_{\mathrm{th}} d_2 + 0.5 \mu_{\mathrm{b}} D_{\mathrm{b}} \right) \label{eq:torque-coefficient} \end{equation}この式は今まで導出してきた式から導くことが出来ます。式(\ref{JIS_trq})に式(\ref{eq:thread-torque})と式(\ref{eq:Tb})を代入すると以下のようになります。
\begin{equation} T = T_{\mathrm{th}} + T_{\mathrm{b}} = F\left( \frac{P}{2\pi} + 0.577 \mu_{\mathrm{th}} d_2 \right) + \frac{F}{2}\mu_{\mathrm{b}}D_{\mathrm{b}} = KFd \label{eq:torque-expanded} \end{equation}これを整理すると下記のようになります。
\begin{equation} F\left( \frac{P}{2\pi} + 0.577 \mu_{\mathrm{th}} d_2 + 0.5 \mu_{\mathrm{b}}D_{\mathrm{b}} \right) = KFd \label{eq:torque-expanded-simplified} \end{equation}この式の右辺と左辺を入れ替えて両辺を$F d$で割ると式($\ref{eq:torque-coefficient}$)を導出することが出来ます。
この式を見て前回の記事で正しく理解することが出来なかった呼び径なのか有効径なのかの問題を理解できるようになった気がします。
$T = KFd$の式は簡易的な式なので、一般的な呼び径を使って計算できるようにKの項ですべてのつじつま合わせをしているということがこの式を見て理解できました。
まとめ
今回はJIS B 1083:2008に記載されているトルクと締付け力との関係について勉強しました。一部AIに教えてもらいながら記載している内容があります。自分で納得できない箇所はAIに参考文献などを教えてもらいながら理解して記載したつもりですが、私の理解に間違いがあればご教示お願いいたします。
一旦ねじの本に記載されている内容の勉強は以上として、次回何を勉強するかは別途考えます。
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