前回は応力-ひずみ線図の見方を勉強しました。今回はねじの力学を勉強していきます。
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第2回 機械工学の勉強~応力 - ひずみ線図、ねじの強度今回も下記の本と、その著者がモノタロウにて執筆しているねじについての講義をもとに勉強を進めていきました。
ねじと斜面
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| 2-2 ねじ山の種類より引用 |
ねじを締めるという動きは、この三角形の斜面に対して物体を持ち上げることと似ています。ねじの原理を理解するために、下記図のような直角三角形において、ある物体が乗っているモデルで考えていきます。
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| 3-1 ねじの原理 より引用 |
ねじにはたらく力
ここでは具体的にねじの締結原理について勉強していきます。
下記図のように、軸力(荷重) $W$ を水平方向の締付力 $F$ で持ち上げることを考えます。(ねじをナットに締め付けるイメージをモデル化してます。)
下記画像だと少し見にくいですが、ねじには摩擦力が発生するため、斜面に対して摩擦力 $f$ が働くとしています。
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| 3-4 ねじにはたらく力より引用 |
まず最初に、上記画像で登場する $T$、$N$、$R$、$S$ について解説していきます。
$T$ と $N$ は、それぞれ水平方向に加える力 $F$ を「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分解したものです。それぞれの力は以下の式で表されます。
\begin{align*} T &= F \cos\theta \quad \text{(斜面に平行な方向)} \\ N &= F \sin\theta \quad \text{(斜面に垂直な方向)} \end{align*}$S$ と $R$ は、斜面においてある物体に働く荷重(重力による力 $W$)を、同様に「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分解したものです。それぞれの力は以下の式で表されます。
\begin{align*} S &= W \sin\theta \quad \text{(斜面に平行な方向)} \\ R &= W \cos\theta \quad \text{(斜面に垂直な方向)} \end{align*}次に摩擦力についてみていきます。少し復習になりますが、摩擦力 $f$ は垂直抗力(斜面が物体を垂直に押し返す力)と摩擦係数 $\mu$ を使って、下記のように表すことができます。
\begin{equation*} f = \mu N_{\text{total}} \end{equation_今回、斜面にはたらく垂直抗力の総量は、下記赤矢印で示すように $R$ と $N$ が合わさった( $R + N$ )になるため、式は以下のようになります。
\begin{equation*} f = \mu (R + N) \end{equation*}|
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| 3-4 ねじにはたらく力に加筆 |
斜面に平行な力のつり合いを考えると、外力と抵抗力が釣り合うため下記のようになります。
\begin{equation*} T = S + f \end{equation*}この式に、先ほど導き出した各方向の力の式( $T = F \cos\theta$、 $S = W \sin\theta$、 $f = \mu(R + N)$ )をそのまま当てはめると、下記のようになります。
\begin{equation*} F \cos\theta = W \sin\theta + \mu (W \cos\theta + F \sin\theta) \end{equation*}ここから、求めたい力 $F$ について式を整理していきます。まずは右辺のカッコを展開します。
\begin{equation*} F \cos\theta = W \sin\theta + \mu W \cos\theta + \mu F \sin\theta \end{equation*}次に、 $F$ を含む項を左辺に集め、それ以外の項( $W$ を含む項)を右辺にまとめます。
\begin{equation*} F \cos\theta - \mu F \sin\theta = W \sin\theta + \mu W \cos\theta \end{equation*}共通する因数である $F$ と $W$ で、それぞれの辺をくくって整理します。
\begin{equation*} F (\cos\theta - \mu \sin\theta) = W (\sin\theta + \mu \cos\theta) \end{equation*}この状態にしてから、両辺を $\cos\theta$ で割り算します。
(※ $\frac{\sin\theta}{\cos\theta} = \tan\theta$、 $\frac{\cos\theta}{\cos\theta} = 1$ になる性質を利用します)
最後に、求めたい水平方向の力 $F$ だけの形にするため、両辺を $(1 - \mu \tan\theta)$ で割り算します。
\begin{equation} F = W \frac{\tan\theta + \mu}{1 - \mu \tan\theta} \end{equation}次に摩擦角 $\phi$ を導入して式を整理していきます。ただ、恥ずかしながら私が摩擦角という概念を知らなかったため、私の理解の整理も兼ねて、記事の最後に「補足:摩擦角について」のコーナーを設けました。気になる方はそちらを先に読んでみてくださいね。
さて、摩擦角を $\phi$ とすると $\mu = \tan\phi$ と表せるので、これを(1)式に代入すると下記のようになります。
\begin{equation*} F = W \frac{\tan\theta + \tan\phi}{1 - \tan\theta \tan\phi} \end{equation*}ここで、高校数学でおなじみの三角関数の「タンジェントの加法定理」を使って式をスッキリ整理します。
【高校数学のおさらい:タンジェントの加法定理】
$$\tan(\alpha + \beta) = \frac{\tan\alpha + \tan\beta}{1 - \tan\alpha \tan\beta}$$
加法定理を使うと、あの長かった分数の式が、魔法のように一列にまとまります!
\begin{equation} F = W \tan(\theta + \phi) \end{equation}また、ねじを緩める場合は逆で、斜面に沿って物体を押し下げることになるため、符号が逆転して下記の式になります。
\begin{equation} F = W \tan(\theta - \phi) \end{equation}この式から、ねじの進み角 $\theta$ よりも摩擦角 $\phi$ の方が大きいとき( $\theta - \phi < 0$ )には、ねじが自然に緩まない(自己保持作用がある)ことが分かります。ねじが勝手に緩まない限界のリード角を求める際にもこの関係が使われるみたいです。
(※実際は、潤滑油の状態や振動などによって摩擦係数が複雑に変化するため、実務では「トリボロジー」という摩擦・摩耗を専門に扱う学問の深い知識が必要になりそうで、今回はこれ以上の深追いをするのは断念しました…!)
ねじを回すモーメント(トルク)
ここから、いよいよ実務の整備の話に繋げていきましょう。ねじを回す力は、物体の「モーメント(回転力)」とみなすことができます。
下記図のように、ねじの有効径を $d_2$ (図中ではシンプルに $d$ と表記されています)、スパナの有効長さを $L$、スパナに加える力を $F_S$、ねじの有効径に対して直角に加わる力を $F$ とします。
(※この図は本のイラストをAIで再現させようとしたのですが、線がきちんと真っ直ぐにさせられませんでした。少し気になる部分もあるかもしれませんが、ご愛嬌ということで我慢をお願いします…!)
- $L$ :スパナの有効長さ
- $F_S$ :スパナに加える力
- $d_2$ :ねじの有効径(※JIS規格では $d_2$ となっていますが、参考文献の図の表記に合わせて、今回の解説中では簡易的に $d$ として進めます)
- $F$ :ねじの有効径に対して直角に働く力
このとき、ねじ部に働くモーメント $M$ は、回転の中心(ねじの有効径の半分である $\frac{d_2}{2}$ )と、ねじの有効径に直角に働く力 $F$ の積で表すことができます。
また、スパナがねじ部に与えるモーメントは $F_S$ と $L$ の積になり、この2つのモーメントの大きさは完全に一致(つり合い)するため、次のような関係式を導き出すことができます。
\begin{equation*} M = F_S \cdot L = F \cdot \frac{d_2}{2} \end{equation*}この式の $F$ に対し、先ほど(2)式で導き出した最終公式( $F = W \tan(\theta + \phi)$ )をそのまま代入して綺麗に整理してみましょう。すると、次のような式になります。
\begin{equation} M = \frac{W d_2}{2} \tan(\theta + \phi) \end{equation}この式には摩擦角が入っており、摩擦角の内部には摩擦係数が含まれているため、都度摩擦係数などを測定しないと厳密なトルクは求められません。
なので、実用上(設計や整備の現場)では、それらの複雑な計算をまるごとスッキリ簡略化した、以下の公式が広く用いられています。
\begin{equation} M = F_S \cdot L = 0.2 \cdot d \cdot W \end{equation}※なお、この「0.2」という数字は魔法の数字ではなく、厳密な式に対して、一般的な鉄ボルトの標準的な摩擦係数(約 0.15 )やJIS規格のねじ寸法を代入したときに導き出される平均値です。さらに詳しく摩擦係数の算出プロセスを追いかけたい方は、専門メーカーや技術論文の解説が非常に参考になりますので、記事の最後にあるリンクをぜひ確認してみてください。
では、この実用的な(5)式を使って、実際にボルトを締め付ける力を求めてみましょう。参考書に記載されている例題をご紹介します。
【例題】
有効長さ $200\,\text{mm}$ のスパナでM8のメートルねじに $100\,\text{N}$ の力を加えて回転させるとき、ねじを締め付ける力(軸力 $W$)の大きさを求めてみましょう。
$M = F_S \cdot L = 0.2 \cdot d \cdot W$ より、
$$W = \frac{F_S \cdot L}{0.2 \cdot d} = \frac{100 \times 200}{0.2 \times 0.8} = \frac{20000}{1.6} = 12,500\,[\text{N}]$$『メイカーのためのねじのキホン』P93 より引用
上記計算では、実務の簡略式に従ってねじの呼び径( $d=8$ )を使って値を算出していますが、これで私たちが工具でかける力から、リアルな締め付け力が机の上で計算できるようになりました。(上記式で分母が0.2×0.8となっている箇所がありますが、原文のほうの誤記だと思われ、正しくは8だと思います。途中式が違うだけで、結果は変わらないですが念のため補足させていただきます。)
(※厳密に計算する場合は、JIS B 0205-4に記載されている、ピッチに応じた有効径の基準寸法 $7.188\,\text{mm}$、 $7.350\,\text{mm}$、 $7.513\,\text{mm}$ のいずれかを使うことになります)
(補足)ねじの締め付けトルクのすべてが「軸力」に変換されるわけではない
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| ねじ締結と摩擦係数 - ヤマハ発動機株式会社(テクニカルレビュー)より引用 |
上記データを見ると一目瞭然な通り、私たちがかけたトルクの「54 %」はボルトの頭の座面摩擦で消え、「37 %」はねじ山同士の摩擦トルクとして熱に変換されて損失してしまいます。つまり、実際に純粋な軸力として仕事をしてくれているのは、全体のわずか 9 %程度となってしまいます。
ところが、この締め付けトルクがすべて軸力に変換されるわけではなく、その約 90 %はねじ面及び座面の摩擦によって消費されており、軸力として働くのは約10 %程度であることが知られています。
『メイカーのためのねじのキホン』P93 より引用
(補足)摩擦係数の算出・導出について詳しく学べる参考サイト
- ねじ締結と摩擦係数 - ヤマハ発動機株式会社(テクニカルレビュー)
(実際の試験機を用い、締め付けトルクと軸力の測定データから、ねじ面の摩擦係数 $\mu_s$ や座面の摩擦係数 $\mu_w$ を実験的に算出・導出する実測アプローチが数式とともに詳しく記載されている資料です。) - ねじ締結の原理と締結信頼性の向上(トルク法の力学) - ハードロック工業株式会社
(強力なゆるみ止めナットで有名なメーカーによる技術寄稿です。トルク係数の厳密式を分解し、総合摩擦係数 $\mu$ をどのように定義して導出していくのかが力学的に解説されています。)
(補足)摩擦角について
途中で登場した「摩擦角」の概念については、以下のサイトの系(モデル)を参考に勉強させていただきました。
参考:摩擦角の定義|摩擦角の求め方と例題 - 学びのタイムズ
摩擦角は簡単にいうと、斜面の角度 $\theta$ を大きくしたときに、物体が自重で滑り始める限界の角度のことです。
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| 摩擦角の定義|摩擦角の求め方と例題より引用 |
ここで、斜面の上で静止している物体にはたらく「静止摩擦力」を $f_s$、「静止摩擦係数」を $\mu$、「垂直抗力」を $N$ とおくと、物体が滑り落ちないための条件は以下のように表せます。
物体が滑り出さずにその場にとどまるためには、斜面平行方向の滑り落ちようとする力(=静止摩擦力 $f_s$ )が、摩擦の限界値である「最大静止摩擦力( $\mu N$ )」以下であれば良いため、以下の不等式が成り立ちます。
\begin{equation*} f_s \le \mu N \end{equation*}この式の両辺を、垂直抗力 $N$ で割り算してみます。
\begin{equation*} \frac{f_s}{N} \le \mu \end{equation_幾何学的な位置関係から、滑り落ちようとする力と押し付ける力の比率は $\tan\theta = \frac{f_s}{N}$ という綺麗な三角比の関係になります。そのため、先ほどの式は以下のように書き換えることができます。
\begin{equation*} \tan\theta = \frac{f_s}{N} \le \frac{\mu N}{N} = \mu \end{equation*}つまり、すっきりとまとめると「 $\tan\theta \le \mu$ 」の傾きの間は、物体は斜面を滑り落ちずに耐えてくれる、ということになります。
Sky(角度)をさらにジワジワと大きくしていき、物体がまさに滑り始めるその瞬間に、摩擦力は限界(最大静止摩擦力)に達するため、不等号のサインが等号へと変わり、等号(イコール)が成立します。
この「滑り始める限界の瞬間」の斜面の角度を $\phi$ と書くことにすると、式は以下の決定的な関係を満たすことになります。
\begin{equation} \mu = \tan\phi \end{equation}この、滑り出す限界の角度 $\phi$ のことこそを、工学では「摩擦角」と呼んでいるのです。この関係があるからこそ、ねじの複雑な計算式の中にいた摩擦係数 $\mu$ を、 $\tan\phi$ にすんなり置き換えることができたわけですね。
まとめ
今回は前回の「応力-ひずみ線図」に続き、私たちの工具からボルトに力が伝わる本質である「ねじの力学」についてステップを追って勉強してきました。
普段あまり気にしてなかったねじの軸力の簡易的な計算ができるようになったので、これから整備する際も意識して整備していきたいと思います。
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