第3回 機械工学の勉強~ねじの力学、締め付け管理方法

2026/06/23

機械工学

前回は応力-ひずみ線図の見方を勉強しました。今回はねじの力学を勉強していきます。

↓前回の記事

第2回 機械工学の勉強~応力 - ひずみ線図、ねじの強度

今回も下記の本と、その著者がモノタロウにて執筆しているねじについての講義をもとに勉強を進めていきました。もし間違っていることがあればご教示お願いします。

参考:ねじの基礎講座 - モノタロウ


ねじと斜面

以前のブログで「円筒に直角三角形の紙を巻き付けると、三角形の斜面がらせんを描く」というのをご紹介しました。

ねじを締めるという動きは、この三角形の斜面に対して物体を持ち上げることと似ています。ねじの原理を理解するために、下記図のような直角三角形において、ある物体が乗っているモデルで考えていきます。

ねじの原理のモデル図
3-1 ねじの原理 より引用

ねじにはたらく力

ここでは具体的にねじの締結原理について勉強していきます。
下記図のように、軸力(荷重) $W$ を水平方向の締付力 $F$ で持ち上げることを考えます。(ねじをナットに締め付けるイメージをモデル化してます。)

下記画像だと少し見にくいですが、ねじには摩擦力が発生するため、斜面に対して摩擦力 $f$ が働くとしています。

3-4 ねじにはたらく力より引用


まず最初に、上記画像で登場する $T$、$N$、$R$、$S$ について解説していきます。

$T$ と $N$ は、それぞれ水平方向に加える力 $F$ を「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分解したものです。それぞれの力は以下の式で表されます。

\begin{align*} T &= F \cos\theta \quad \text{(斜面に平行な方向)} \\ N &= F \sin\theta \quad \text{(斜面に垂直な方向)} \end{align*}

$S$ と $R$ は、斜面においてある物体に働く荷重(重力による力 $W$)を、同様に「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分解したものです。それぞれの力は以下の式で表されます。

\begin{align*} S &= W \sin\theta \quad \text{(斜面に平行な方向)} \\ R &= W \cos\theta \quad \text{(斜面に垂直な方向)} \end{align*}

次に摩擦力についてみていきます。少し復力を変え見ていきます。摩擦力 $f$ は垂直抗力(斜面が物体を垂直に押し返す力)と摩擦係数 $\mu$ を使って、下記のように表すことができます。

\begin{equation*} f = \mu N_{\text{total}} \end{equation*}

今回、斜面にはたらく垂直抗力の総量は、下記赤矢印で示すように $R$ と $N$ が合わさった( $R + N$ )になるため、式は以下のようになります。

\begin{equation*} f = \mu (R + N) \end{equation*}
ねじの斜面にはたらく垂直抗力と摩擦力
3-4 ねじにはたらく力に加筆

斜面に平行な力のつり合いを考えると、外力と抵抗力が釣り合うため下記のようになります。

\begin{equation*} T = S + f \end{equation*}

この式に、先ほど導き出した各方向の力の式( $T = F \cos\theta$、 $S = W \sin\theta$、 $f = \mu(R + N)$ )をそのまま当てはめると、下記のようになります。

\begin{equation*} F \cos\theta = W \sin\theta + \mu (W \cos\theta + F \sin\theta) \end{equation*}

ここから、求めたい力 $F$ について式を整理していきます。まずは辺のカッコを展開します。

\begin{equation*} F \cos\theta = W \sin\theta + \mu W \cos\theta + \mu F \sin\theta \end{equation*}

次に、 $F$ を含む項を左辺に集め、それ以外の項( $W$ を含む項)を右辺にまとめます。

\begin{equation*} F \cos\theta - \mu F \sin\theta = W \sin\theta + \mu W \cos\theta \end{equation*}

共通する因数である $F$ と $W$ で、それぞれの辺をくくって整理します。

\begin{equation*} F (\cos\theta - \mu \sin\theta) = W (\sin\theta + \mu \cos\theta) \end{equation*}

この状態にしてから、両辺を $\cos\theta$ で割り算します。
(※ $\frac{\sin\theta}{\cos\theta} = \tan\theta$、 $\frac{\cos\theta}{\cos\theta} = 1$ になる性質を利用します)

\begin{equation*} F (1 - \mu \tan\theta) = W (\tan\theta + \mu) \end{equation*}

最後に、求めたい水平方向の力 $F$ だけの形にするため、両辺を $(1 - \mu \tan\theta)$ で割り算します。

\begin{equation} F = W \frac{\tan\theta + \mu}{1 - \mu \tan\theta} \end{equation}

次に摩擦角 $\phi$ を導入して式を整理していきます。ただ、恥ずかしながら私が摩擦角という概念を知らなかったため、私の理解の整理も兼ねて、記事の最後に「補足:摩擦角について」のコーナーを設けました。気になる方はそちらを先に読んでみてくださいね。

さて、摩擦角を $\phi$ とすると $\mu = \tan\phi$ と表せるので、これを(1)式に代入すると下記のようになります。

\begin{equation*} F = W \frac{\tan\theta + \tan\phi}{1 - \tan\theta \tan\phi} \end{equation*}

ここで、高校数学でおなじみの三角関数の「タンジェントの加法定理」を使って式をスッキリ整理します。

【高校数学のおさらい:タンジェントの加法定理】
$$\tan(\alpha + \beta) = \frac{\tan\alpha + \tan\beta}{1 - \tan\alpha \tan\beta}$$

加法定理を使うと、あの長かった分数の式が、魔法のように一列にまとまります!

\begin{equation} F = W \tan(\theta + \phi) \end{equation}

また、ねじを緩める場合は逆で、斜面に沿って物体を押し下げることになるため、符号が逆転して外部の式になります。

\begin{equation} F = W \tan(\theta - \phi) \end{equation}

この式から、ねじの進み角 $\theta$ よりも摩擦角 $\phi$ の方が大きいとき( $\theta - \phi < 0$ )には、ねじが自然に緩まない(自己保持作用がある)ことが分かります。ねじが勝手に緩まない限界のリード角を求める際にもこの関係が使われるみたいです。

(※実際は、潤滑油の状態や振動などによって摩擦係数が複雑に変化するため、実務では「トリボロジー」という摩擦・摩耗を専門に扱う学問の深い知識必要になりそうで、今回はこれ以上の深追いをするのは断念しました…!)

ねじを回すモーメント(トルク)

ここから、いよいよ実務の整備の話に繋げていきましょう。ねじを回す力は、物体の「モーメント(回転力)」とみなすことができます。

下記図のように、ねじの有効径を $d_2$ (図中ではシンプルに $d$ と表記されています)、スパナの有効長さを $L$、スパナに加える力を $F_S$、ねじの有効径に対して直角に加わる力を $F$ とします。


(※この図は本のイラストをAIで再現させようとしたのですが、線がきちんと真っ直ぐにさせられませんでした。少し気になる部分もあるかもしれませんが、ご愛嬌ということで我慢をお願いします…)

  • $L$ :スパナの有効長さ
  • $F_S$ :スパナに加える力
  • $d$ :ねじの呼び径(※参考文献の本ではこの説明が有効径である$d_2$となっていたのですが、本に記載されていた練習問題やJIS規格の式と比較して呼び径の$d$が正しそうなので、dとしてます。)
  • $F$ :ねじの有効径に対して直角に働く力

このとき、ねじ部に働くモーメント $M$ は、回転の中心(ねじの有効径の半分である $\frac{d_2}{2}$ )と、ねじの有効径に直角に働く力 $F$ の積で表すことができます。

また、スパナがねじ部に与えるモーメントは $F_S$ と $L$ の積になり、この2つのモーメントの大きさは完全に一致(つり合い)するため、次のような関係式を導き出すことができます。

\begin{equation*} M = F_S \cdot L = F \cdot \frac{d_2}{2} \end{equation*}

この式の $F$ に対し、先ほど(2)式で導き出した最終公式( $F = W \tan(\theta + \phi)$ )をそのまま代入して綺麗に整理してみましょう。すると、次のような式になります。

\begin{equation} M = \frac{W d_2}{2} \tan(\theta + \phi) \end{equation}

この式には摩擦角が入っており、摩擦角の内部には摩擦係数が含まれているため、都度摩擦係数などを測定しないと厳密なトルクは求められません。

なので、実用上(設計や整備の現場)では、それらの複雑な計算をまるごとスッキリ簡略化した、以下の公式が広く用いられています。

\begin{equation} M = F_S \cdot L = 0.2 \cdot d \cdot W \end{equation}

※なお、この「0.2」という数字はトルク係数とも呼ばれるもので一般的な鉄ボルトの標準的な摩擦係数(約 0.15 )やJIS規格のねじ寸法を代入したときに導き出される平均値です。さらに詳しく摩擦係数の算出プロセスを追いかけたい方は、専門メーカーや技術論文の解説が非常に参考になりますので、記事の最後にあるリンクをぜひ確認してみてください。

トルク係数をKとして(5)式を変えると下記のようになります。

\begin{equation*} M = F_S \cdot L = K \cdot d \cdot W \end{equation*}

$F_S \cdot L$はトルクなので、一般的には$F_S \cdot L$をトルクの$T$として下記のように表現します。

\begin{equation} T = K \cdot d \cdot W \end{equation}

  • T:トルク
  • K:トルク係数
  • $d_2$:ねじの有効径(後述しますが、今回参考にいた本の誤記の可能性があり、有効径の$d_2$ではなく、呼び径の$d$だと思います。)
  • W:軸力

では、この実用的な(5)式を使って、実際にボルトを締め付ける力を求めてみましょう。参考書に記載されている例題をご紹介します。

【例題】
有効長さ $200\,\text{mm}$ のスパナでM8のメートルねじに $100\,\text{N}$ の力を加えて回転させるとき、ねじを締め付ける力(軸力 $W$)の大きさを求めてみましょう。

$M = F_S \cdot L = 0.2 \cdot d \cdot W$ より、
$$W = \frac{F_S \cdot L}{0.2 \cdot d} = \frac{100 \times 200}{0.2 \times 8} = \frac{20000}{1.6} = 12,500\,[\text{N}]$$

『メイカーのためのねじのキホン』P93 より引用

上記計算では、実務の簡略式に従ってねじの呼び径( $d=8$ )を使って値を算出していますが、これで私たちが工具でかける力から、リアルな締め付け力が机の上で計算できるようになりました。(上記式で分母が0.2×0.8となっている箇所がありますが、原文のほうの誤記だと思われ、正しくは8だと思います。途中式が違うだけで、結果は変わらないですが念とも補足させていただきます。)

(※厳密に計算する場合は、JIS B 0205-4に記載されている、ピッチに応じた有効径の基準寸法 $7.188\,\text{mm}$、 $7.350\,\text{mm}$、 $7.513\,\text{mm}$ のいずれかを使うことになります)

(2026年7月3日 追記)上記について、B 1083:2008に記載されている式を確認したところ、有効径という説明が間違っており、呼び径が正しかったです。で紹介されているトルクと締め付け力の式ではねじの呼び径が数式で使用されておりました。JIS規格の定義に準拠すると本の練習問題の答えはあっており、式に使われている文字の説明として有効径が使われているのが不適切な可能性があります。詳細は次回の記事で説明予定です。

(補足)今回紹介した式の導出は簡易的なもの

B 1083:2008のJIS規格を読んでいて分かったのですが、今回の参考にした本で紹介されていた数式は座面トルクなどを計算式に考慮されてない数式の導出だと思いました。(トルク係数Kの項で座面トルクなどが考慮されているため、トルク係数Kを使えば計算としては正しい値を出すことができます。)

JIS規格を読てもらえばわかりますが、汎用的な数式を導出する場合は座面トルクとねじ部トルクの2つの考慮が必要で、もう少し式が複雑になります。

下記記事でJIS規格に記載されている数式について勉強した内容を整理したので、こちらも確認していただけると幸いです。

第4回 機械工学の勉強~JIS B 1083:2008に記載されているトルクと締付けの関係式について

(補足)ねじの締め付けトルクのすべてが「軸力」に変換されるわけではない

例題でねじの軸力を計算しましたが、実際に人間がかけた工具のトルクが、すべてねじの軸力(部品を挟み込む力)に変換されるわけではありません。
下記PDFに、M8(ピッチ1.25)のボルトを油を塗布せずに $15\,\text{N}\cdot\text{m}$ で締め付けた場合の実験データが記載されていましたのでご紹介します。
ヤマハ発動機論文よりトルクの割合のグラフ
ねじ締結と摩擦係数 - ヤマハ発動機株式会社(テクニカルレビュー)より引用

上記データを見ると一目瞭然な通り、私たちがかけたトルクの「54 %」はボルトの頭の座面摩擦で消え、「37 %」はねじ山同士の摩擦トルクとして熱に変換されて損失してしまいます。つまり、実際に純粋な軸力として仕事をしてくれているのは、全体のわずか 9 %程度となってしまいます。

今回参考にさせていただいた本にも、これと全く同じ現象を指す次のような記述があります。

ところが、この締め付けトルクがすべて軸力に変換されるわけではなく、その約 90 %はねじ面及び座面の摩擦によって消費されており、軸力として働くのは約10 %程度であることが知られています。

『メイカーのためのねじのキホン』P93 より引用

「ねじを締める力の9割は摩擦の抵抗との戦いで消費され、本当の締め付け力になるのは1割だけ」という経験則を頭に入れておくといいと思いました。

(補足)摩擦係数の算出・導出について詳しく学べる参考サイト


ねじの締め付け管理方法

ねじを締結する際にねじの軸力の管理はとても重要になります。軸力小さいと振動などでゆるむ原因となってしまったり、大きすぎるとねじが前回紹介した塑性変形をしてしまい、伸びたり、被締結部材が破壊されてしまいます。

軸力は直接測定するのは難しく、自動車やバイク整備で一般的なトルク法のようにトルクと軸力の線形関係を活用する測定方法があります。今回は代表的なねじの締め付け管理方法を紹介します。

トルク法

最初に紹介するのはトルク法です。トルク法は締め付けトルクと締め付け力との線形関係を利用したねじの締め付け管理方法です。先ほど紹介した(6)式を見ればわかりますが、トルクが増加すると軸力も比例して増加することを利用してます。

この方法は比例していることを前提としているため、前回紹介した比例限度の域すなわち弾性領域でしか使うことができません。(詳細は下記URL参照お願いします。)

https://4ag4126.blogspot.com/2026/06/blog-post_14.html#toc_headline_6

また、締め付けトルクと軸力の関係をグラフ化したものが下記の図になります。横軸がトルクで縦軸が軸力になってます。

このグラフを見ればわかりますが、トルク法では摩擦面にはたらく摩擦係数が変化するため、ばばらつきが発生してしまいます。((6)式のKの値に依存して傾きが変わってしまう。)

また、実際のトルクレンチの精度自体にもばらつきがあるため、ばらつきの範囲としては下記図のオレンジ色で塗られている範囲になります。

ボルトの締付け法ートルクと軸力
3-8 ボルトの締付け法より引用

実際に摩擦の状態によってどの程度軸力が変わってしまうかを検証した動画があったため紹介します。下記画像を見ていただくとわかりますが、潤滑剤を使用すると摩擦が低下するため、トルク係数も減少します。(6)式を見ればわかりますが、同一トルクの場合、左辺のTが一定なので、右辺のKの値が減少すると軸力Wが必然的に大きくなります。

一方で摩擦が大きくなるキズあり品は摩擦係数が大きくなるため、軸力も減少しているということが分かります。

トルクと軸力より引用
他にも何度もカチカチするとトルクレンチで設定したトルクで想定されている以上に軸力が加わってしまいます。

工具メーカのTONEさんのほうで検証動画があったため、紹介させていただきます。下記画像の左はトルクレンチで380 Nの設定をしてボルトを締めた場合の軸力です。画像が見にくくて申し訳ないですが、この時の軸力は130 kN程度と動画で紹介されてました。

次に追加でカチカチした場合が下記画像の右側です。こちらは動画内で紹介されてなかったですが、目視で見るとおおよそ135 kN程度に見えます。(なのでおおよそ 3.85%程度軸力が上がってます。)

動画では11回程度カチカチ実施しており、実際の運用ではそこまで過剰にカチカチすることはないと思いますが、トルクレンチで値を正しく設定していてもねじの締結に必要な軸力が過剰に掛かってしまうということを頭に入れておくといいと思います。

トルクレンチで何度もカチカチした場合の軸力の差
トルクレンチは2度掛け禁止!ガチャガチャすると軸力は上がっていくより引用

この理由については動画内では詳しくは紹介されていませんでしたが、おそらく静止摩擦係数より動摩擦係数のほうが小さいため、勢いよく回して静止摩擦係数から動摩擦係数に変化してしまい、同一トルクでも軸力が増加してしまったのではないかと推定しています。

回転角法

続いては回転角法です。整備関連だとスパークプラグの取り付けや車のオイルフィルターの取り付けで使われているもので、例えば着座後3/4回転するなどの回転角で管理する方法です。

回転角法はトルク法で問題となっていた摩擦力による軸力のばらつきを低減するために考案された方法です。ねじの回転角とボルトの伸び量が比例するという関係を活かして軸力を管理します。(詳細は下記参照お願いします。)


まず「ボルト頭部が被締結物に軽く接触するまで」トルクをかけて予備締めを行い、その後、規定された角度(例:90°や120°)だけボルトを回転させて軸力を管理します。
ねじを締付けるとボルトは引っ張られて伸び、被締結部品は圧縮されて縮みます。
このとき、ボルトの伸び量(=軸力)は、ねじの回転角とおおむね比例関係にあります。
回転角法はこの関係を利用し、摩擦に左右されやすいトルク値ではなく、回転角を基準に軸力を間接的に管理する方法で具体的には以下のような手順で締結します。

1. 小さなトルクで部品を密着させる(予備締め)
2. そこから指定角度だけボルトを追加で回す(角度締め)
...軸力を間接的に管理する方法です。具体的な手順は以下の通りです。
1. 小さなトルクで部品を密着させる(予備締め)
2. そこから指定角度だけボルトを追加で回す(角度締め)
という2段階で目標軸力を得るのが特徴です。

また、回転角法には弾性域での締め付け(弾性域回転角法)と塑性域の締め付け(塑性域回転角法)の2つがあります。下記図を見るとわかりますが、塑性域での締め付けのほうが軸力のばらつきが少ないため、塑性域回転角法が一般的に用いられています。(逆転したグラフを見ればわかりますが、塑性域になるとグラフの傾きが緩やかになるため、安定した軸力を管理することができます。)

摩擦の影響が少ないなら、全部回転角法でいいのではと思いましたが、今回参考にした本には下記のようなことが記載されてました。
弾性域締め付けではスナグ点がボルトごとにばらつきやすいため、作業が簡単なトルク法の方が多く用いられており、ばらつきが小さくなる塑性域締めつけが行われます。
メーカーのためのねじのキホン p95より引用

これらのことから、自動車で使われるボルト類は一部を除き再利用が前提となっているため、弾性域での締め付けとなるため、トルク法が一般的に用いられているのではないかと思いました。

トルク勾配法

最後に紹介するのはトルク勾配法です。トルク勾配法は締め付け回転角に対する締め付けトルクの勾配(下記図の $\frac{dT}{d\theta}$ )を締め付け指標として締め付け管理を行う方法です。

トルクの勾配を算出するために締付トルクと回転角をセンサなどで検出して、弾性域から塑性域への変化点をコンピュータで算出しながら締めつけを行います。

下記図を見ればわかると思いますが、目標点としては降伏締め付け軸力を目標点として締め付けることができるため、ボルトの強度を限界まで使い切ることができます。(降伏点については前回の記事も参照お願いします。)

トルク勾配法の仕組み図
ねじの締付け 管理方法についてより引用

また、今回参考にした本には下記のような記載もありました。

回転法におけるスナグ点のばらつきの影響を排除しようと生み出されたものであり、締め付け時の回転角とトルク曲線の勾配を検出して軸力を管理します。

メイカーのための ねじのキホンP.96より引用

スナグ点について回転法であまり触れなかったですが、座面を密着させるために必要な締付トルクを作用させた点のことです。

先ほども紹介しましたが、スナグ点はトルク法で管理するのがいいので、トルク法と回転法の二つのいいところどりをして、精度よく締め付けをできるようにしているという面もありそうです。

また、私がトルク勾配法を初めて知ったので、トルク勾配法を対応した工具を調べたのですが、調べ方が悪いのかあまりヒットせず、下記のような工場で使う用途の工具がヒットしました。

Power Focus 6000 より引用
自動車のエンジン回りなどの締付けの信頼性の高さを求められる場合に用いられることが多いという説明だったため、主に工場組み立てで使われるのかなと思いました。(エンジンのOHするような人ならもしかしたら持っているかもしれないですが、個人で持つ工具ではないと思いました。)

JIS規格のねじの締付け通則について

今まで紹介した3種類の締め付け方法は下記のJISに記載がされてます。

このJIS規格では下記のように各締付け管理方法が、どの締め付け領域で行われるのかと各締め付け方法の詳細な数式などが記載されているため、一度見ておくといいと思いました。(今回紹介した数式は理解をしやすくするために簡略化した数式だったということをこの規格を見て理解しました。。。)

JIS B 1083の締め付け領域表
B 1083:2008より引用
ここで、締付け係数はJIS規格では下記のように定義されてます。
初期締付け力のばらつきを表すための,初期締付け力の最大値と最小値との比。
B 1083:2008より引用

また、新しい用語の初期締付け力という言葉が登場したので、再度JIS規格に記載されている定義を紹介します。

締付け作業終了直後の締付け力。ただし,紛らわしくない場合には,単に締付け力又は締付け軸力といってもよい。

B 1083:2008より引用

以上を整理すると締付け係数Qは締付けが終わった際の軸力の最大値を最小値で割った比なので、ばらつきを表していることが分かります。最大軸力を$F_H$、最小軸力を$F_L$とすると下記のように表せます。

\begin{equation} Q=\frac{F_H}{F_L} \label{eq:tightening_factor} \end{equation}

この表を見るとトルク法と弾性域の回転角法はばらつきが大きく(精度が悪い)、塑性域の回転角法とトルク勾配法はばらつきが小さい(精度が良い)ことが分かります。

(補足)締付け係数と軸力のばらつき

私だけかもしれないですが、締付け係数を見ても軸力として結果何%程度ずれるのか直感的に理解が難しかったので、目標締付け軸力をばらつきの範囲の中央値として仮定(最大値側、最小値側同じ幅でぶれるという前提)して、どのくらい軸力がばらつくか見てみます。

目標軸力が中央値にあるため、先ほどの最大軸力$F_H$と最小軸力$F_L$を使って目標軸力は下記のように表現します。

\begin{equation} F_{\mathrm{target}} = \frac{F_H+F_L}{2} \label{eq:target_force} \end{equation}

なので目標値に対する片側のばらつき率は以下のようになります。途中で両辺をFLで割る式変形をしてQに置き換えてます。

\begin{equation} \frac{F_H-F_{\mathrm{target}}}{F_{\mathrm{target}}} = \frac{Q-1}{Q+1} \label{eq:scatter} \end{equation}

この\ref{eq:scatter}にJIS規格で定義されている締付け係数Qを入れて整理すると以下のようになります。

締付け管理方法 締付け領域 締付け係数 Q 目標軸力からの片側ばらつき
トルク法 弾性域 1.4 ±16.7%
トルク法 弾性域 3.0 ±50.0%
回転角法 弾性域 1.5 ±20.0%
回転角法 弾性域 3.0 ±50.0%
回転角法 塑性域 1.2 ±9.1%
トルクこう配法 弾性限界 1.2 ±9.1%

この表は最初にも述べた通り、最大側も最小側も同じだけばらつくという前提ですが、普段自動車整備などで使っているトルク法でも軸力は50 %程度ばらついてしまうことがあることが分かります。

今まで自動車整備をする中でトルク管理をしっかりして入れば問題ないと思っていましたが、軸力ベースでみるとこんなにずれているというのを初めて理解できました。。。(もちろんメーカさんもこの軸力のばらつきを考慮して、トルクの設定をしていると思うので、通常の整備ではトルク法での管理で問題ないと思ってます。)


(補足)摩擦角について

途中で登場した「摩擦角」の概念については、以下のサイトの系(モデル)を参考に勉強させていただきました。

参考:摩擦角の定義|摩擦角の求め方と例題 - 学びのタイムズ

摩擦角は簡単にいうと、斜面の角度 $\theta$ を大きくしたときに、物体が自重で滑り始める限界の角度のことです。

斜面上の物体の摩擦角の定義図
摩擦角の定義|摩擦角の求め方と例題より引用

ここで、斜面の上で静止している物体にはたらく「静止摩擦力」を $f_s$、「静止摩擦係数」を $\mu$、「垂直抗力」を $N$ とおくと、物体が滑り落ちないための条件は以下のように表せます。

物体が滑り出さずにその場にとどまるためには、斜面平行方向の滑り落ちようとする力(=静止摩擦力 $f_s$ )が、摩擦の限界値である「最大静止摩擦力( $\mu N$ )」以下であれば良いため、以下の不等式が成り立ちます。

\begin{equation*} f_s \le \mu N \end{equation*}

この式の両辺を、垂直抗力 $N$ で割り算してみます。

\begin{equation*} \frac{f_s}{N} \le \mu \end{equation*}

幾何学的な位置関係から、滑り落ちようとする力と押し付ける力の比率は $\tan\theta = \frac{f_s}{N}$ という綺麗な三角比の関係になります。そのため、先ほどの式は以下のように書き換えることができます。

\begin{equation*} \tan\theta = \frac{f_s}{N} \le \frac{\mu N}{N} = \mu \end{equation*}

つまり、すっきりとまとめると「 $\tan\theta \le \mu$ 」の傾きの間は、物体は斜面を滑り落ちずに耐えてくれる、ということになります。

Sky(角度)をさらにジワジワと大きくしていき、物体がまさに滑り始めるその瞬間に、摩擦力は限界(最大静止摩擦力)に達するため、不等号のサインが等号へと変わり、等号(イコール)が成立します。

この「滑り始める限界の瞬間」の斜面の角度を $\phi$ と書くことにすると、式は以下の決定的な関係を満たすことになります。

\begin{equation} \mu = \tan\phi \end{equation}

この、滑り出す限界の角度 $\phi$ のことこそを、工学では「摩擦角」と呼んでいるのです。この関係があるからこそ、ねじの複雑な計算式の中にいた摩擦係数 $\mu$ を、 $\tan\phi$ にすんなり置き換えることができたわけですね。


まとめ

今回は前回の「応力-ひずみ線図」に続き、私たちの工具からボルトに力が伝わる本質である「ねじの力学」についてステップを追って勉強してきました。

計算に際してねじ部トルクを考慮してないなど、一部簡略な式でしたがネジの力学の概要を理解することが出来ました。

普段あまり気にしてなかったねじの軸力の簡易的な計算ができるようになったので、これから整備する際も意識して整備していきたいと思います。

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自己紹介

はじめまして 社会人になってからバイクやプログラミングなどを始めました。 プログラミングや整備の記事を書いていますが、独学なので間違った情報が多いかもしれません。 間違っている情報や改善点がありましたらコメントしていただけると幸いです。

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